気分は「スタンドバイミー」。あなたは30km歩いて帰れますか?「災害時の徒歩帰宅」を考える
1.30km歩いて家まで帰れるか?
30kmってどんな距離?想像できますか?
「スタンドバイミー」といっても、ドラ泣きのことではありません。少年たちの冒険と成長を描いた、あの名作。もう30年以上も前の映画です。廃線を歩くツアーなどが人気なのは、この映画の影響でしょうか。少年たちが歩いた距離は、片道約30キロでした。
会社から私の自宅まで約30km。東日本大震災の時、実際に歩いて帰られたという方もいらっしゃったと思います。飲んでいてタクシー代まで酒代に消えた場合、いや、大規模災害時、もしかしたら私も歩いて帰らなくてはならないかもしれないと思い、試してみることにしました。
ちなみに、30kmというと、東京駅から国分寺、横浜、幕張メッセ、柏、ふじみ野あたりになります。
事前準備:「グーグルマップ」と「帰宅支援マップ」で所要時間とルートを検討
まずグーグルマップで会社と自宅からの距離、徒歩でかかる時間を検索しました。あわせて、帰宅支援マップを見ながらルートを考えます。主要道路とともに、その道が使えなくなった場合も想定して、少し回り道をしながら複数ルートを見ることにしました。実際は家まで30kmはありませんので、グーグルマップで検索して出た時間+1時間、5~6時間あれば十分だと思っていました。
2.墨田区のおいしい情報♪
12:00 いざ、スタート。正直余裕だと思ってました
4月半ば、この日は朝から小雨が降ったりやんだりのあいにくの天気。フルマラソン2回をともに走りぬいた戦友のシューズに防水スプレーを振って出発。購入時に細かく足の計測・分析をしてもらい選んだ、こだわりのランニングシューズ、久々に日の目を見ました。
墨田区の魅力再発見!会社のまわりがおもしろくて抜け出せない
いつもは錦糸町駅から会社までの往復ばかりで、駅と反対方向に歩くのは初めてです。まずは北斎通りを西へ。歩き始めて数分でいかにもおいしそうな豆大福につかまってしまいました。
北斎茶房さん。古民家をおしゃれにリノベーションされた店内で、ランチや甘味がいただけるようです。この日は豆大福を買って、帰宅後のご褒美としました。
お隣は打って変わっておフランスの香り。ガレットが食べられるお店MALOさん。今度ランチに行ってみたいと思います。
その他にも、天然酵母のパン屋Le Coeur bakery & cafeさんや、米粉パンカフェ和屋(かずや)さんなど、目移りしてなかなか会社の周りから前に進めません。
江戸東京博物館近くで、うちの子も大好きな顔出しにつられて近寄って見ると(子どもってなぜ顔出しが好きなんでしょう)、中には土俵が!
中で相撲はとれませんが、土俵を見ながらお食事が楽しめるそうです。花の舞 江戸東京博物館前店さん。お相撲好きな方、外国の方に喜ばれそうですね。
両国橋のそばには300年も続く、しし鍋を始めとした獣肉料理のももんじ屋さんが。いのししのはく製がお出迎えしてくれました…!老舗からリノベーションされたイマドキのカフェまで、墨田区にはおいしいものがたくさんありますね!
3.墨田区の役立つ防災スポット♪
防災スポット発見!いつでも誰でも使えるソーラー充電器
すみだ北斎美術館の一画にある緑町公園、ここは「災害時一時集合場所」に指定されています。
ちなみに、このあたりは「海抜0.7m」。墨田区は全体的に海抜が低いので、荒川決壊の水害リスクを想定し、対策に尽力されています。
そして、付近の広域避難場所を知らせるタワーが、なんとソーラー発電の携帯電話充電スポットになっています!決して良い天気とは言えないこの日でしたが、私のiphoneもちゃんと充電できました。ただし、どれくらい蓄電されているのか不明ですし、野ざらしなので大雨の際は拭くもの、濡れないような注意が必要です。
この「LED照明付ソーラースタンド」は、墨田区内では他に「錦糸公園(中央デッキ前)」と「おしなり公園(東武橋際)」にも設置されているそうです。
これで充電OK!さて、どうやって親しい人と連絡をとりますか?「大規模災害時の通信・連絡手段の備え」もご覧ください。
暗い夜道のつよ~い味方!ソーラー式の街路灯
携帯の充電はできませんが、墨田区では街路灯もソーラー式のものが増えているようです。停電時でも夜が真っ暗にならないというのは大事なことです。
いざとなったらハンマーで打ち抜いて使うトイレ!?
春のうららの隅田川、両国橋の手前にあるトイレは、「震災対応型」。 「このトイレは地下にピット室を設けており、災害時には便槽として使えるようになります」。 要するに、トイレの地下にコンクリート製の空間が作ってあり、地震発生時の断水などの時、便器の底をハンマーで!打ち抜き、ポットンとして使える作りになっているということです。
区内134カ所の公衆トイレを震災対応型に整備したとすると、全区民が8日間使用できる容量になるのだそうです。(試算されたのは随分前のようなので現在の詳しい状況は不明)ここにはおむつ替えの台、オストメイトの設備もあります。
いずれにしても、トイレットペーパーの備蓄は絶対に必要ですよ!
さて、いつまでも墨田区にはいられません。家に帰らねば。ここまでまっすぐ歩けば20分弱のはずが、すでに小一時間経過していました。
反対側の橋のたもとは、国道災害復旧資機材置場。このすぐ向こうは台東区です。
13:30 中央区へ レトロビルと珈琲の誘惑
レトロな外観のビル、珈琲の誘惑にかられながら、心を鬼にして前に進みます。
13:45 あっという間に千代田区へ
防災案内板を見ると、都立一橋高校が「災害時応急給水施設」となっています。ご自宅の近くの災害時給水ステーションもチェックしてみてください。※東京都内のみ
帰宅支援マップでは「帰宅支援ステーション」及び「一時滞在施設」となっていますが、どのタイミングで開設されるかは不明です。地域の避難所にもなっていますが、地域の方への支援が優先されるのではないでしょうか。
4.実際歩いてみたら?
14:00 足のダル重より何より…ひたすら眠い
体力には自信がある方ですが、なんせ体はちょっとなまってます。子どもに蹴られたりかかと落としされたりして、まとまった睡眠がとれていない…と、今歩きながら寝てたかも。足のダル重より、眠気。
前にだけ進み始めると、途端に眠くなります。マラソンでも、単調なコースでは眠気との闘いが結構つらいです。
高架下、かなり老朽化も進んでいて、地震を想定しなくても、普通に大丈夫かなと思ってしまいます。
神田祭の準備も始まっていました。いつもなら吸い込まれる神保町書店街もスルー。
皇居に帰っていく小学生。通学路なのでしょうか。
靖国神社は八重桜が満開でした。
平面的な地図の罠。ダラダラ登る坂は地味に体力を奪います
この日も、そうだった、知っていたはずなのに、忘れていました。九段下からの上り坂。心構えをしておくとちょっと気分は違いますよね。
地図でルートを見る際、注意しなければならないのは勾配。グーグルマップを普段から使われている方でも、坂道は見落としがちです。5分でいける、楽勝!と思ったところ、着いてみたらものすごく急な坂だったということ、ありませんか?
google map 高低差グラフ左上に「↑24m」「↓1m」とあるのは、「累積標高」というものです。このルートでは、スタートから累積で24m上り、1m下るということです。
なお、別ルートでは、「↑179m」「↓156m」となっています。スタートとゴールが同じでも、これだけアップダウンがあるのです。また、ルート上にカーソルを合わせると、ルート上のどの部分にあたるかも表示されます。
しかし、全ての情報が網羅されてはいないようです。近所ではすごい坂道として有名な場所も、検索すると「ほぼ平坦」と出てきたりします。やはり実際見てみないとわからないことがありますね。
また、帰宅支援マップには色分けされた見やすい高低差マップも巻末に付録されています。
14:30 新宿区へ
神社を見つけたらお参りしたくなるのですが、今日はこの階段を見て諦めます。神社も一時集合所などに指定されているケースが多いです。
15:00 ペース配分を完全に間違えた。焦る
このペースでは帰宅時間に間に合わない…!ちょっと走ろうかと思いだすも、さすがに足が重くなってきました。
フルマラソンでは事前にペース配分に合わせて、ポイント通過時刻、トイレ、給水、給食プランをたててから走るんですが、今回はいろんなルートを見るため寄り道をしようと、予定はあまり立てていませんでした。
15:30 完歩は諦める
この時点でもう時間が足りないことは確実。余裕と思っていたのでちょっと悔しいです。 これまで墨田区→中央区→千代田区→新宿区と歩いてきました。区によって防災表示の仕方や、地図の表示など全然違いました。中でも墨田区は一番丁寧だと思いました。
17:00 タイムアップ
予定の時間いっぱいまで歩ききりましたが、達成ならず。残りはワープしました。実際に歩いてみると、やはりペースはだんだん落ちてきます。キロ何分、のペースを守り続けることは難しいので、グーグルマップの想定時間より時間がかかることを想定することが必要です。
この日は涼しいお天気だったので500ml入りの水筒1本で大丈夫でしたが、暑くなると水分補給が大事です。トイレは5時間で2回行きました。途中で少し栄養補給をしたくなる人もいるかもしれません。 すぐに脱げてしまうスニーカーでは歩けません。ハイヒールはもってのほか。しっかり足に合ったシューズがいいでしょう。普段はきなれていないと、靴擦れしてしまうかもしれません。
また、大学生の頃は夜通し30km歩くというイベントに参加したことがあります。その時は、翌日は眠気と筋肉痛で使い物になりませんでした。あれから20年…続きは綾小路きみまろ氏に語っていただきましょう。
5.必要な備え、一斉帰宅の是非
想定できていますか?発災後、3日は動けないかもしれません
東京都は、大規模震災が起きた際、会社に3日程度とどまるよう通達を出しているのをご存知ですか?
従業員等の一斉帰宅が救助・救出活動の妨げとならないよう、発災後3日間は企業等が従業員等を施設内に待機させる必要があります
歩くと満員電車状態で、平常時の3倍の時間がかかる
東京都の試算では、丸の内OLが埼玉県和光市の自宅まで21km、歩いて帰宅するには5時間かかるとしています。通常なら今回の私と同じくらいの時間ですが、大きな違いがあります。
都内の人が一気に帰宅を始めると、道路にはたちまち人があふれ、満員電車状態に。帰宅には15時間、通常の3倍かかるそうです。しかも歩き始めから9時間はこの満員電車状態が続くということ。
と、言われても想像できないと思いますが、東京国際フォーラムに貼られていたこのポスターが、なかなかすさまじいです。「大地震・災害時は、あなたのために帰らない。群衆雪崩に巻き込まれる!!」
この状態で、何時間も歩けるでしょうか。いつもは歩ける距離でも、明るい内に歩ききれるとは限りません。さらに、怪我をしているかもしれない、お腹を壊しているかもしれない、泥酔しているかもしれない。健康であっても、相当ハードな行進になるでしょう。
また新宿区は、帰宅難民の受け入れには難色を示しています。一時滞在施設は利用想定者92万人に対し、まだ30万人程度しか確保されていません。そしてまずは地域住民への対応が1番。一時滞在施設の整備は、後回しにならざるを得ないのではないでしょうか。
それでもすぐに歩いて帰らなければならないか?会社に留まれないケースもある
近い距離ならともかく、あまりに遠い距離を歩いて帰ることは現実的ではありません。職場とご自宅が遠い方、営業まわりで毎日違う場所に行かれる方、ご自分にはどんな備えが必要か、これを機に一度想定してみていただければ幸いです。
また、会社に留まろうとしても、倒壊の恐れや火災、浸水などで会社の近くの避難所に行かざるを得ないケースも出てくるかもしれません。自分の家の備えは大丈夫、という方は、会社のまわりの避難所もチェックしておきましょう。
徒歩帰宅を想定する場合の準備
とはいえ、それでもどうしても一刻も早く帰宅をしなければならないという方もいらっしゃると思います。その際は、事前の準備と想定が大事です。すぐに歩いて帰らなくても済むような備えも同時に考えておくと安心です。
- 体感として、1km、5km、10km、それ以上がどんなものか知っておく
- 時間、距離感、体力、自分の体で測っておく
- 徒歩での帰宅ルートを調べてルートを作成する
- グーグルマップや、帰宅支援マップを見る
- グーグルストリートビューでPC上でシミュレーションしてみる
※帰宅支援マップには、一部ブロック塀や危険な箇所などが記載されています - 実際に歩いてみる
- 広い道がいいのか、狭い道がいいのか、どの道がいいのかはケースバイケース
- 帰宅支援マップには書かれていない危険な場所を把握しておく
- 道の広さ、夜間のイメージ、坂道や階段、橋、工事現場、ビルの窓ガラスや植木鉢など危険物が落下してこないか、老朽化した建造物はないか
- トイレスポット、休憩できそうな場所のチェック
- 途中の地域の避難所では受け入れてもらうのは難しいと思われますので、あまりあてにしておかない、基本的に自分で解決できるように(運営本部により体制が違います)
- 途中での火災、津波なども想定して、避難できるところを複数知っておく
- 持ち物の準備
- 携帯トイレを持っておく、事前に一度使ってみる
- 職場にスニーカー・靴下、レインコ―ト、リュックを置いておく
※雨に濡れると急激に体温が奪われます。また、両手をあけておくことも鉄則! - 普段からヘッドライトや防犯ベルを持っておく
- ラジオや携帯の予備バッテリーがあると安心
- 社長さんは、社員の帰宅ルートを確認し、遠方からの通勤者の対策を考えておく
- 営業で社内にいないことが多い人の対策も考えておく
- 会社の装備の見直し
- 会社の近辺の避難所のチェック
焦らず、できることから
「防災」と思うと気が進まないかもしれませんが、体力検査や、アウトドア・キャンプの準備と思ってみると、楽しんで装備やアイテムを考えられるかもしれませんよ♪
グーグルマップでルートを見てみる、マップを買ってみる、最初は小さな小さな、ベビーステップで構いません。ぜひ、できることをひとつずつやってみてください。