検証:あの「ユニクロマスク」にはアレが足りない?
「Soichiroならこうする」会議
2020年6月某日。
Soichiroでは、社員研修やブレストを兼ねて、ある商品についてあらゆる方面からとことん議論する「Soichiroならこうする会議」を不定期開催しています。
先日、社員があのユニクロマスクの「パッケージ」を友人から入手したことから、パッケージデザインについて検討することになりました。
今回、ユニクロのエアリズムマスクについて話題になったのは、その機能性と人気、販売方法。あのシンプルなデザインのパッケージについて議論する余地があるのかという意見もありました。
しかし、最終的にあのユニクロマスクには大事な「アレ」が足りないのではないか?という結論に至りました。
パッケージデザインについて
サイズ誤認の可能性はないか?
デザインは、ユニクロのデザインルールに基づいて作られているのでしょう。ロゴと「AIRism」のロゴを目立たせ、シンプルに必要最低限の情報のみとなっています。
「Lサイズ」と「Mサイズ」、パッケージ自体は全く同じサイズのようです。消費者が手に取って購入する際は、サイズ間違いが起こる恐れがあります。
デザイナーからは、「サイズ部分の背景をグレーベタで塗り、文字を白抜きにする。ちいさめ、などのサイズ表記のフォントをもう少し大きくする。ユニクロのデザインのトーン&マナーと考えられる範囲内で変更するだけでも、かなり視認性が上がるのではないか」と意見が上がりました。
下の写真のように明度差をつけると、視力が落ちている方、色がわかりにくい方にも見えやすくなります。
現状、マスクはホワイトしかありませんが、いずれカラー展開も考えられているのかもしれません。
ミニマルデザインでありながらも、間違いにくく、人的ミスを防ぐための工夫の余地はあると考えます。
陳列方法は適切か?
通常、一般的な少量販売マスクには吊り展示用の穴がありますが、このパッケージにはありません。今回はネット販売であること、店員が整理券を受け取りサイズを確認後、店員が箱から出して顧客に渡すことから、穴やプラハンガーは必要ありませんでした。
これはユニクロの割り切りというよりも、この販売方法を想定し、不要な工程や資材を省いた英断だったのではないでしょうか。
パッケージ素材について
パッケージは和紙のような優しい手触りで、マスク3枚のパッケージにしては高級感があります。
マスクのパッケージ素材は「外側 紙、内側 ポリエチレンフィルム」。
衛生面からも、パッケージとしてプラスチックを使用しないという選択肢はないかと思われますが、せめて表面を紙にしたことは、環境に優しいイメージを訴求したいというユニクロのこだわりがあるようにも思えます。
ユニクロは2019年に、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の取り組みとして、使い捨てプラスチックの使用削減に関するグループ方針を策定。
2020年までに店頭での使い捨てプラスチック包装を85%削減
引用元:ユニクロプレスリリース2019年07月03日
としています。
実際に店頭でも「プラスチックを最大限カットした、紙パッケージになりました。」などのPOPも目立ちます。
現状、パッケージを吊るすハンガーはまだプラスチックのようですが、足袋・靴下・ストッキング・下着などの製造販売「
福助
」のように、いずれ殆どの資材も紙製となっていくのかもしれません。(
福助がプラスチック削減へ向けて資材を見直し、削減効果は年間約1トン
)
あれ?「アレ」が足りない?
ここで、海外赴任経験をもち、ゴミの分別には一家言ある社員Aがあることに気付きました。
「リサイクルマークが、ない」
「
資源有効利用促進法 (平成13年4月施行)」では、製造事業者や輸入販売事業者には、プラスチック製容器包装や、紙製容器包装には、識別マークを表示する義務があります。
例えば、ユニクロマスクのパッケージと一見同じような質感に見えた和菓子のパッケージ。PP(ポリプロピレン)単体でできているため、「プラ」のマークがあります。
また、一見クラフト紙に見えたお茶のパッケージは「紙」マークではありません。PE,M,Pの表示で「プラ」のマークがあります。
- PE…ポリエチレン
- M…アルミなどのメタル
- P…紙
で構成されており、重量が一番重いものに下線を引く決まりです。
これはPEに下線が引かれていますので、外観は紙であっても、「プラ」表示となります。
なぜユニクロマスクのパッケージには識別マークがないのでしょう。何か、つけなくてもいい理由があるのでは?
本来、Soichiroならこうする、とパッケージデザイン案についてもっと議論を展開していく予定でしたが、これを機に「識別表示」について調べ検討する流れとなりました。
検証1:そもそも、マスクのパッケージは対象品目にあたるのか
識別表示とは、消費者がゴミを分別しやすくなることでリサイクルを進めることが目的なので、基本的に消費者向けの製品包装には表示義務があります。
マスクのパッケージは、紙製容器包装または、プラスチック製容器包装にあたります。
さらに、経済産業省のパンフレットにある「プラスチック製容器包装および紙製容器包装の識別表示チェックシート」の分類を見てみます。
上記チェックシートよると、「特定容器包装」→「輸入品」→「素材、構造、商標使用の指示あり※1」→「通常の容器包装(いわゆる包装紙以外)」→「無地でなくかつ表示可能」→「同時廃棄の一体容器包装※2なし」→「直接表示※3」となります。
※1…「ユニクロ」が商標登録されています。(「ファッションブランドの「ユニクロ」が登録されている商標の区分は?」商標登録ファーム)
※2…
「一体容器包装」とは、容器包装に入れられまたは包まれた商品を入れまたは包む他の容器包装
引用元:経済産業省「識別表示の義務」
とあります。
かなりややこしいのですが、個別包装されたマスクがさらに包装されている状態でしょう。今回はこれには当たりません。
※3…ここで直接表示とは、表示対象の容器包装の表面への表示のこと。
以上から、パッケージには識別表示の義務があると言えます。
検証2:ユニクロは、対象企業にあたるのか
経済産業省のパンフレットによると識別表示義務対象者として下記が規定されています。
- 容器の製造事業者
- 容器包装の製造を発注する事業者
- 輸入販売事業者
となり、対象企業となると言えます。
検証3:素材比率がちょうど半分ずつで表示できないのでは
識別表示は重量が一番重いものを表示するのが決まりです。この場合、たまたま紙とプラがちょうど半々になったのではないか?そのためどちらも表示できなかったのではないか。
「参考:(Q58) プラスチックと紙からなる容器包装で分離不可能(複合素材)な場合、どのように表示すればよいのですか?」
公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会
に確認してみました。問合せにご対応くださった方も、以前国に確認したところ、比率が50%:50%になることは「あり得ない」とのことで、必ず1%であっても重量差が出るため、表示は必ず必要とのことでした。
検証4:実は不織布でできているのではないか
不織布は「布」扱いとなり、表示対象から外れます。しかし、しっかり「紙」と書いてあるため、不織布ではないのでしょう。
検証5:例外なのではないか
最も有力ではないかと考えられる説です。
布マスクは3枚入りです。1枚使用しても、すぐに残りの2枚を使用するわけではありません。すなわち、「あとの2枚が残っているパッケージを保管用とする」、または「使用しているマスクの持ち運び用ポーチ」として捉えれば、表示の義務はないのではないか。
例えば、着物の畳紙、化粧品の付属ポーチのように、中の製品を使用するタイミングとパッケージを捨てるタイミングが違えば、表示の義務は無いようです。
ただしこちらについても、前出の公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会
によると、貴金属のように半永久的に保管を必要とするものには不要と言えるが、マスク3枚を使ったタイミングで遅かれ早かれ廃棄するものと思われるため、表示義務があるとのことでした。
結論:表示についてはグレー
Soichiroの見解としては、表示が不要であるという明確な理由まではたどり着けていません。我々が気付いていない、表示が不要である第6の理由があるのかもしれません。
私は繊維製品品質管理士でもあり、ブラッシュアップのため勉強会にも参加しております。洗濯表示やタグ表示については、事例検討会などでよく検討され、見解が割れます。
洗濯表示が間違っていたことから発生するクレームは多々あり、表示の間違いは消費者に不利益を与えかねません。せっかく気に入って購入していただいた商品が、二度と使えない状態になること、それに起因して消費者に与える苦痛は、メーカー・消費者、双方にとって不本意なことです。
今一度、各種表示の見直しを
なお、令和2年4月1日より、「資源有効利用促進法」の省令一部改正に伴い、「識別表示のルール」が変わっています。※紙とプラには変更ありません。
(経済産業省の識別ルール変更告知パンフレット)
また、罰則もあります。
資源有効利用促進法の規定を遵守しない識別表示義務者には、勧告、公表、命令、罰則が適用されます。
引用元:経済産業省「識別表示の義務」
御社の成分表示・製品表示など、商品企画時から定期的に見直しされていますか?仕様が変わっても、企画段階のままになっていたりしませんか?
法律や業界ルールは、マイナーチェンジされているとうっかり気付かないこともあります。
今一度、各種表示について見直してみられてはいかがでしょうか。
なお最後になりましたが、世の求めに応じて一刻も早く良い商品をと企画されたユニクロさんに、敬意を表します。
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