「すみだは大きな家族」チームで支え、地域でつなぐ。創業・経営に悩む事業者のための「すみサポ」活用ガイド

墨田区役所内にある「すみだビジネスサポートセンター(以下、すみサポ)」は、墨田区役所 産業観光部 経営支援課の委託を受けて運営されている、区内事業者を対象とした無料の経営相談窓口です。創業・経営・技術など、幅広い分野に対応し、豊富な知識と経験を持ったコーディネーターが、創業や補助金などのサポートを行っています。
一般的な公的支援機関では「相談して終わり」となるケースも少なくありません。一方、すみサポは相談対応にとどまらず、経営や事業成長まで踏み込んだ継続的な支援を行っている点が特徴です。
なぜ、そこまでの支援が可能なのか。
本記事では、支援に携わる方々への取材をもとに、その背景とすみサポの取り組みをご紹介します。
【今回お話を伺った方】
- 墨田区役所 産業観光部 経営支援課 職員様
- すみだビジネスサポートセンター コーディネーター 藤本様
- 株式会社パソナ(受託運営)竹前様
すみサポ設立の背景と目的
まずは、すみサポがどのようにして生まれたのか、その背景から見ていきます。すみサポの前身は「すみだ中小企業センター」という施設だったそうです。
墨田区役所 職員様:
主に製造業等を中心とした、ものづくり企業を支援するための公共施設でした。しかし平成28年度末に廃止となり、翌年度に新たに支援拠点として『すみだビジネスサポートセンター』が設立されました。
すみサポ 藤本様(以下、藤本):
もともと墨田区は、製造業が盛んな地域でした。それがスカイツリー開業を契機とした街の変化によって、区内全体に商業施設が増え、産業構造はだんだん広がりを見せていきました。
産業が多角化する中で、特定の業種に限らず、観光やサービス業も含めて総合的に相談できるセンターの必要性が高まっていきました。
こうした背景から、すべての業種を対象とした総合的な経営支援窓口として平成29年に「すみサポ」がスタートしました。
墨田区の事業者によく見られる特徴
墨田区の事業者には、自宅と工場や店舗が近い「職住近接」のケースが多いと藤本氏は話します。そのため、経営と生活が密接に結びついている点も特徴の一つです。
藤本:
墨田区は、自宅と工場や店舗が近い「職住近接」の事業者が多く、仕事と生活が密接に結びついています。
こうした地域性を背景に、日本で初めて「中小企業振興基本条例」が制定されました。この条例では、事業者の経営支援にとどまらず、地域の暮らしや産業全体を支えていくという考え方が反映されています。
他の支援機関との違いと強み
中小企業支援には商工会議所や公的機関などさまざまな選択肢がありますが、すみサポの特徴とは、どんなものなのでしょうか。
藤本:
中小企業支援の機関はさまざまありますが、地元密着という点ではやはり区の政策に強みがありますね。
すみサポは墨田区役所内にあるので、区の補助金や施策と連携した支援が可能です。さらに、都や国の補助金についても幅広く相談に対応しています。
事業者様のご相談にお答えするアドバイザーは、さまざまな事業形態にオールラウンドで対応できるコーディネーターが揃っています。
また、1つの事業者様に1人のコーディネーターが対応するのではなく、2~3人のチームで支援を行っています。IT・戦略・財務などを含め、ワンストップで対応する。これがすみサポの特色です。
多い相談テーマと支援の広がり
すみサポには、創業や補助金に関するご相談が多く寄せられています。
藤本:
創業に関しては、墨田区のチャレンジ支援資金の金利が優遇されているので、そのご相談をきっかけに来られる方が多いです。そこから経営計画の相談に発展していく傾向があり、開業後も足を運んでくださる方がたくさんいらっしゃいます。
開業後は、東京都・国・墨田区の補助金に関するご相談を受けることも多いですね。知的財産や設備導入(LEDなど)に関する質問をきっかけに、課題や改善点が見つかり、継続的な支援につながるケースも少なくありません。必要に応じて店舗などの現場を訪問することもあります。
また、金融機関との連携も特徴の一つです。「HANDS(ハンズ)」と呼ばれるネットワークを通じて、店舗物件の相談や取引先や外注先の紹介、販路に関する相談など、経営に関わるさまざまな相談に対応しています。
※HANDS(ハンズ)は、東京東信用金庫、東信用組合、中ノ郷信用組合、第一勧業信用組合と墨田区が連携し、墨田区の中小企業をサポートするネットワークです。
相談から生まれる具体的な支援
藤本:
すみサポ立ち上げ当初は、創業者に加えて知的財産補助金申請や販路開拓などについて相談に訪れる方が多く見られました。
こうした相談に対しては、申請書の書き方を伝えるだけでなく、「何を売っているのか」「どのような事業なのか」といった点まで丁寧にヒアリングを行い、必要に応じて店舗や工場などの現場も訪問します。
現場を確認することで、経営上の課題が明らかになることもあり、そこから決算情報の分析や戦略立案、大型補助金(2,000万円規模)の活用といった、より具体的な支援へと発展するケースもあるんです。中には、新たな店舗づくりに至った事例もあります。
また、決算書をお預かりした場合は、チームで分析を行って、補助金の活用も含めた支援につなげています。こうしたサポートを無料で提供している点も特徴の一つです。
初回相談の流れ
相談は事前予約制で、初回は1時間程度行われます。
藤本:
ヒアリングでは以下の3点は必ずお聞きします。
- 何を作って(売って)いるのか
- どうしてその製品が売れているのか
- 今後、事業をどのように展開していきたいか
自己資金の状況や今後の展開ビジョンを確認しながら、事業の方向性や実現可能性、継続性について一緒に整理していきます。
2回目以降の流れ
2回目以降は、課題解決に向けた具体的な取り組みが進められます。
藤本:
中小企業支援の手法はさまざまありますが、チーム内で共有し、ノウハウを蓄積することでサポートの質を高めています。
ご相談の内容や状況に合わせて最適な方法を選んでいますが、なかでも中小企業庁が提供するヒアリングツールはとても効果的です。組織の体制や資金繰り、自社の強み・課題などを一つひとつ整理していくことで、経営者ご自身が客観的に見つめ直すことができるからです。
現状がクリアになると、次に取るべきアクションや優先順位も自然と見えてきます。単なる「お悩み相談」で終わらず、具体的な一歩を踏み出すための「実行支援」につながっていくんです。
実際にやってみて、「こんないいものがあるとは思わなかった!」とおっしゃる方も多いんですよ。次にやること、やらなくてはならないことが明確になりますからね。
ですから初回にはそうしたツールを提案して、2回目、3回目ではこれらを活かした相談、課題の発展に繋げています。
成果に繋がった印象的な事例
長期的に関わる中で、事業が大きく伸びていったケースもあります。
藤本:
創業当初から支援している食品製造の方ーー最近はテレビにも出ていらっしゃるんですが、ふとしたタイミングで、すみサポにご相談に来られるんです。
ご自身の考えが合っているかどうかを確認しに来られるような形ですね。この間も補助金の申請で来られて、無事に採択されました。
老舗の製造業の方もいらっしゃいます。社長を継ぐ前からの支援で、事業の見直しや新たな考えを推進したいとお手伝いも適宜させていただきました。財務面の支援や、経営革新計画の策定を一から助言したところ、次第にご自身で考え、主体的に進められるようになりました。2回目の計画書はほぼご本人が作成されています。現在では、製品を海外に展開するまでに成長されています。
他にも、当初はアドバイスがなかなか腑に落ちなかった方が、創業から5年ほど経って「あの時言われたことが理解できました」とおっしゃるケースもあります。すぐに結果が出なくても、関わり続ける中で理解が深まっていくことも少なくありません。
すみサポが目指す支援のかたち
すみサポの支援は、単なるアドバイスにとどまりません。現場に足を運ぶことで得た情報をもとに、事業者様同士をつなぐ「マッチング」も大きな役割の一つです。
すみサポの運営を受託している株式会社パソナの竹前氏は、次のように話します。
株式会社パソナ 竹前様(以下、竹前):
ものづくりの分野では、現場を見ているからこそできる支援があります。
例えば、ある事業者の課題を、別の事業者の技術で解決できるといったケースです。CADが得意な方、電気分野に強い方、革製品に精通している方など、それぞれの強みを把握しているからこそ、適切な橋渡しができます。
こうしたマッチングは、これまでの活動の積み重ねがあってこそ実現できるものだと思います。
続けて藤本氏は、技術の見極めについて次のように説明します。
藤本:
ものづくりの現場では、“ニーズ(求められていること)”と“シーズ(価値につながる技術や強みの芽)”の両方を正しく把握することが重要です。どんな“他社が模倣できない強みを持っているのか”をしっかり理解することで、『この技術であれば、どの企業と組み合わせれば価値が出るか』が見えてきます。
そのため、日々の巡回では現場に踏み込み、新しく導入された設備や加工できる範囲なども細かく把握しています。さらに、技術面だけでなく、人と人との相性まで含めて見極めることで、より精度の高いマッチングにつなげています
こうした地域の情報の蓄積とネットワークが、すみサポの強みの一つだと考えています。
「すみだは大きな家族」という考え方
すみサポの支援の背景には、「地域全体で支える」という考え方があります。
藤本:
お互いに同じ地域で活動する仲間という感覚があるからこそ、事業者のことを“自分ごと”、家族のように捉えて関わっています。
一般的な相談では「何を売っていますか?」が先に来ると思うんですが、ここでは「どこ住んでますか?」から始まる。「何々町?それなら○○さんや△△さんの近くですね」みたいな。
地域のつながりを前提として話が進み、だからこそ自然と継続的な関わりにつながっていくのだと思います。
竹前氏も、同様の点を強みとして挙げます。
竹前:
事前に他のコーディネーターにも話を聞いたのですが、やはり同じ意識を持っているようです。すみだという地元がある。地域に根ざしているからこそ、事業者に寄り添い、伴走する姿勢が強いと感じています。
また、区の職員や金融機関などとも近い距離で連携している点も特徴です。
竹前:
区の職員の方も含めて、地域の産業振興に対する意識が非常に高く、顔の見える関係性の中で連携ができている。誰がどんな事業をしているのかが思い浮かぶような距離感で関わっているので、より具体的な支援につながっていると感じています。
墨田区のイベントなどでも、ものづくりを大切にする文化が根付いていることを実感しますね。
あえて言うなら、人情の側面も大きいのかもしれません。
すみサポ活用のポイント
- 補助金相談を入り口に、経営や戦略まで深く相談できる
- IT・財務・戦略などの専門家による、チームの支援を丸ごと受けられる
- 地域密着のネットワークを活かして、地域内のビジネスパートナーとつながれる
これらを組み合わせることで、より実践的な一歩を踏み出すことができます。
まとめ
今回取材を通じて印象的だったのは、すみサポの支援が「その場限り」では終わらないという点です。
補助金の相談をきっかけに、経営や戦略、さらには事業者同士のつながりへと広がっていく。その過程には、現場を深く知るコーディネーターだからこそできる助言や、地域に根ざした関係性がありました。
「すみだは大きな家族」という言葉の通り、「すみだ」ならではの人と人との距離の近さが、継続的な支援につながっているのだと感じました。
単なる制度の提供にとどまらない、地域密着型の支援のあり方が見える。まさに「下町人情」の温かさを感じた取材となりました。
すみだビジネスサポートセンター(すみサポ)
所在地:墨田区吾妻橋一丁目23番20号(墨田区役所1階)
ご相談予約フォーム:https://www.sumisapo.jp/contact/
