「できない」ではなく「できる」を見る。日本理化学工業から考えた、人を見る会社づくり

こんにちは、戦略を担当しているマツオです。
ところで、みなさんは、「キットパス」をご存知でしょうか。
子どもが小さかった頃、友人と一緒にビニール傘や窓ガラスに絵を描いて遊んでいました。そのとき使っていたのが、日本理化学工業の「キットパス」。クレヨンのような描き心地で、窓ガラスや鏡にも描け、水拭きで簡単に消せる絵具です。
晴れた日に、自分で絵を描いたビニール傘をうれしそうに差している子どもを見て、「なんだか魔法みたいだな」と思ったのを覚えています。
その友人がキットパスアートインストラクターとして活動していたこともあり、以前からキットパスは身近な存在でした。私自身、プライベートでは防災士として地域の避難所開設準備にも関わっており、「避難所や避難生活でも何か役立てられないだろうか」と思い、今回、キットパスアートインストラクター講座を受講しました。
使い方を学ぶことが目的でしたが、それ以上に心に残ったのが、日本理化学工業株式会社の会社づくりでした。
社員の約7割が知的障がい者
日本理化学工業は、1937年創業の文具メーカーで、ダストレスチョークやキットパスなどを製造しています。
同社の大きな特徴の一つが、全社員90人のうち66人、約7割が知的障がいのある社員(うち重度の障がい者は22人)であることです(2026年7月現在)。(日本理化学工業株式会社)
現在では製造ラインの多くを障がいのある社員が担っています。その始まりは1959年、近隣の養護学校から依頼を受け、二人の生徒を就労体験として受け入れたことでした。
当初は雇用の予定はありませんでしたが、二人の一生懸命な仕事ぶりを見た社員たちから「一緒に働き続けてほしい」という声が上がり、その後の雇用につながったそうです。
以来、60年以上にわたり障がい者雇用を続けています。
人に合わせて、仕事のやり方を変える
工場では、一人ひとりの理解の仕方や得意・不得意に合わせて、さまざまな工夫がされています。例えば、数字ではなく色で判断できるようにするなど、仕事のやり方や道具を変えることで、その人が持っている力を生かせるようにしています。参考:一人ひとりの理解力に合わせた工夫について(日本理化学工業)
こうした現場改善は、製造業のみなさんもすでにさまざまな形で取り組まれていることと思います。
私が印象に残ったのは、手法そのものよりも、「この人には難しい」で終わらせず、仕事のやり方を変えられないかと考える姿勢でした。
「何度説明しても覚えてくれない」「もっと自分で考えてほしい」と考える前に、説明の仕方や仕事の渡し方を変えられないか、その人が得意なことを見落としていないかを考える。
これは障がいの有無に関係なく、どんな会社にも通じることだと思います。
成果の先にある、働く意味
もう一つ印象に残ったのが、日本理化学工業が大切にしている「働く幸せ」という考え方です。
同社の障がい者雇用の原点として、人間の幸せには、
- 愛されること
- ほめられること
- 人の役に立つこと
- 人に必要とされること
がある、という考えが紹介されています。これは、障がいの有無にかかわらず、多くの人に通じる言葉ではないでしょうか。
給与や待遇はもちろん大切です。それと同時に、「自分の仕事が誰かの役に立っている」「必要とされている」と感じられることも、働く理由の一つになるのだと思います。
日々の仕事では、売上や利益、生産性といった数字に意識が向きます。自分たちは仕事のどこに喜びを感じているだろう。そして、自分たちの仕事は、お客様にどんな喜びを生んでいるだろう。
そんなことを改めて考えるきっかけになりました。
「一隅を照らす」
日本理化学工業の大山泰弘氏の著書『利他のすすめ』には、「一隅を照らす」という言葉が出てきます。
私はこの言葉を、自分が置かれた場所で、自分のできることを通じて、周りを少しでも明るく照らすことだと受け取っています。実は我が子の名前にも、この言葉に込められた思いを重ねています。以前から大切にしていた言葉と、ここで思いがけずつながりました。
美唄進出から約40年後に生まれた商品
日本理化学工業について調べていて、印象的だったのが北海道美唄市との関係です。
現在、美唄工場で製造されるダストレスチョークには、北海道で排出されるホタテ貝殻の微粉末が再生活用されていますが、美唄進出のきっかけはホタテではありません。
工場建設時には、チョークの原料産地に近く、輸送費を抑えられる山口県も候補でした。一方、美唄市では知的障がい者の雇用を進めたいという思いがあり、市や福祉関係者から熱心な誘致を受け、日本理化学工業は最終的に美唄への進出を決めたそうです。
その後、美唄で事業を続ける中で北海道のホタテ貝殻の廃棄問題と出会い、2005年には貝殻を配合したチョークが誕生しました。廃棄物の再利用だけでなく、書き味や消去性、折れにくさなど、商品の品質向上にもつながったそうです。
美唄への進出から約40年。最初から計画されていた話ではなく、そこで事業を続けてきた結果として、地域の課題と自社の商品が結びついていったことに、思わぬ広がりを感じました。
商品から会社まで知ってもらう仕組み
今回、もう一つ勉強になったのが、キットパスや会社そのものを知ってもらうための取り組みです。
私が受講した「キットパスアートインストラクター」もその一つで、使い方だけでなく、商品が生まれた背景や日本理化学工業の取り組みについて学び、受講した人はそれぞれの地域でその魅力を伝えています。
振り返ると、私自身も、友人を通じてキットパスを知り、子どもと使って楽しみ、何年か経って講座を受け、今度は会社そのものを知るようになりました。
使って楽しむ → 好きになる → 誰かに伝える → 会社のことまで知る。
結果として、少しずつファンが広がっていく流れにもつながっているように感じます。
さらに同社では川崎工場、美唄工場の工場見学も受け入れ、ものづくりの現場や働く人を知る機会もつくっています。(2026年8月現在は、一般向けの観光・見学ツアーは実施されていません。障がい者雇用に関心があり、見学の目的が明確な方のみを対象としています。)
インストラクター制度も工場見学も、特別に目新しい手法ではないかもしれません。それでも、「どうすればもっと売れるか」だけでなく、知った人に、もう一歩深く会社や商品を知ってもらう接点をつくっているところには、仕事で企業の発信に関わる立場としても、参考になるところがありました。
最後に
日本理化学工業について知る中で、私が一番心に残ったのは、障がい者雇用の制度や工夫そのものよりも、一人ひとりを見ながら、仕事のやり方を考えていることでした。
「この人には難しい」で終わらせず、こちらに変えられることはないかを考える。
キットパスの講座をきっかけに、自分はどう働きたいのか、周りの人とどう働いていきたいのかを改めて考える時間になりました。
【参考図書】
- 坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社』あさ出版、2008年
- 村上龍『カンブリア宮殿4 新時代の経営:景気回復に依存しない』日本経済新聞出版社、2009年
- 坂本光司『小さくても大きな日本の会社力』同友館、2010年
- 村上龍『カンブリア宮殿 就職ガイド 村上龍×73人の経済人』日本経済新聞出版社、2011年と
- 大山泰弘『利他のすすめ』WAVE出版、2011年
- 大山泰弘『人生とは、人の役に立つこと』WAVE出版、2015年
- 小松成美『虹色のチョーク』幻冬舎、2017年
- 『キットパスアートインストラクター養成講座テキスト』日本理化学工業株式会社、2023年
